深夜休憩。静と動のバランス。

澪音

コールセンターの管理者を、十年ほどしていました。朝礼で毎日言う言葉は、決まっていました。「クレームは、まず聞くこと」

深夜二時。その夜、新人の子が受けた電話に、私も立ち会っていました。イヤホン越しに聞こえるのは、お客様の声だけです。表情は見えません。「大丈夫です」と言いながら、声の温度だけが、少しずつ硬くなっていきます。謝罪を重ねるほど、温度は下がっていく。新人の子は、そのずれに気づけないままでした。電話が終わったとき、その子の指先は、小さく震えていました。

私はヘッドセットを外して、声をかけました。「十分、休憩に行きましょう」二人で外に出て、夜の空気を歩きました。座って声を聞き続けた体を、歩かせる。普段と真逆のことをするだけで、張りつめていたものが、ふっとゆるみます。

声だけを聞く仕事は、静の仕事です。聴くほどに、相手の感情が自分の中へ流れ込んできます。だから、動く時間をわざと挟む。静と動のバランスをとることが、心を守る一番の近道でした。

同僚の中には、電話越しの重さに耐えられず、辞めていく人が何人もいました。私は、辞めませんでした。理由を探すなら、意地です。

視える力は、祖母から受け継いだものです。けれど、視えたものを誰にでも届く言葉にする技術は、あの十年で身につけました。今の鑑定の一言一言は、深夜の休憩時間にも育てられています。

仕事のあと、誰もいない部屋に帰ります。寂しいと思ったことは、あまりありません。静かな部屋も、私には大事な休憩です。

今夜、誰かの声に小さな違和感を覚えたら、聞き流さずに一度だけ心に留めてみてください。そのあと五分だけ、外の空気を歩いてみてくださいね。聴く力は、休ませた分だけ、また遠くまで届きます。

この記事を書いた人

澪音

霊視で鑑定しています。 「見ようとしなくても、見えてしまう」この力は祖母から受け継ぎました。以前はコールセンターで管理職をしていて、たくさんの人の声に向き合ってきました。 ブログでは占いのことや、日々の暮らしで感じたことを綴っています。気軽に読んでもらえたら嬉しいです。