『大丈夫です』が大丈夫じゃないとき

澪音

電話口で「大丈夫です」と言われると、いまでも耳が止まります。

コールセンターの管理者として過ごした十年間、その言葉を毎日のように聞きました。本当に大丈夫な方が、ほとんどです。ただ、ときどき、同じ言葉なのに音が違う方がいました。

あるとき、モニタリング中の通話に耳が留まりました。実家のタブレットが動かない、というお問い合わせです。オペレーターが手順を案内するたびに、お客様は「大丈夫です」と返していました。

三回目で、気づきました。語尾が、半音だけ上がっています。そして「大丈夫です」の直前に、細く息を吸う音が入っていました。

顔の見えない電話では、眼差しの代わりになるのが声です。眼差しのない場所でも、非言語コミュニケーションは声に乗っています。私が頼りにしていたのは、そこでした。

私は通話を代わって、一つだけ尋ねました。「動かなくなったのは、いつ頃からでしょうか」「大丈夫ですか」と重ねるより、答えが具体的に出てくる問いのほうが、声が出やすいんです。

一拍おいて、お客様は話し始めました。三日前から、高齢のご家族から何度も電話が来ること。自分も操作がわからないこと。仕事の合間に対応していて、誰にも言えなかったこと。経緯を丁寧に説明してくださる声は、もう揺れていませんでした。

祖母なら、こう言うはずです。「大丈夫って言えば済むと思ってるんでしょ?」詰問のようで、責める声ではありません。見抜いたうえで、待ってくれる声です。

ひとりで暮らしていると、「大丈夫です」は便利な言葉です。友人に近況を聞かれて、私もつい、そう返します。察してほしい気持ちが、まったくないとは言いません。ただ、察してもらうのを待つのは、私の性に合いません。

だから最近は、言葉をひとこと足しています。「大丈夫です。ただ、今週は少し疲れています」気持ちを具体的に伝える、といっても一言で足ります。大切な人への言葉での愛情表現は、「好き」だけではありません。「疲れた」も、その一つです。

今日「大丈夫です」と言いそうになったら、後ろにもう一言だけ足してみてください。言葉で伝えた気持ちは、ちゃんと届きます🌙

この記事を書いた人

澪音

霊視で鑑定しています。 「見ようとしなくても、見えてしまう」この力は祖母から受け継ぎました。以前はコールセンターで管理職をしていて、たくさんの人の声に向き合ってきました。 ブログでは占いのことや、日々の暮らしで感じたことを綴っています。気軽に読んでもらえたら嬉しいです。